救急室で磨いた技術を、宿に持ち込む。
ある日、自分に問いかけた。
「救急の現場で、私が一番うまくやれたことは何か」
声を聞く前に、体を読む。 要求を聞く前に、必要なことを察する。 26年間、ずっとそれをやってきた。
これを、宿でできないか。
摩擦がない場所
人が疲れているとき、何が一番消耗するか。
選ぶことだ。
「どこで食べますか」「何時にしますか」「これはご利用になりますか」——そういう問いが、疲弊した頭をさらに削っていく。
救急の現場では、患者に選ばせない。 必要なことを、こちらで判断する。 声を上げる前に動いている。
MIGAKI BASEで実現したいのは、それだ。
チェックインの手続きを最小にする。 聞かれる前に整っている。 考えなくていい。
「Zero Friction(ゼロフリクション)」と呼んでいる。
「何もしない」という設計
体験プログラムは作らない。 「◯◯ツアー」も「◯◯体験!」も用意しない。
代わりに、何もしなくていい場所を設計する。
日本海を眺めること。 静かな部屋で、ただ眠ること。 誰にも邪魔されない時間を、一棟ぶん持つこと。
山と海に挟まれた糸魚川の集落には、その素材が揃っている。 Wi-Fiは完備してある。世界から切断する必要はない。ただ、追われなくていい。
「ちょうど良く何もない」場所を、届けたい。
最大8名の、一棟貸し
大勢を詰め込んで稼働率を上げることに、興味が持てなかった。
MIGAKI BASEは一棟貸しだ。最大8名。一組のゲストだけが使う建物を、一晩まるごと借りる。
プライバシーがある。 隣の部屋を気にしなくていい。 他の客のことを考えなくていい。
看護師として積み上げてきた「空間の安心設計」を、そのままここに持ち込む。
始まりは、2026年冬
許可申請の準備をしている。保健所、消防、行政——それぞれに基準があり、一つずつクリアしている最中だ。
目標は2026年の冬。 スキーシーズンに、最初のゲストを迎えること。
父が築いた建物で、自分が磨いてきた技術を使う。
それがMIGAKI BASEだ。