父の家を、宿にする。

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父は航海士だった。

世界中の港を回り、定年後は剣道の師範として地域の子どもたちと向き合った。その道場の横に「不動心」と刻んだ石碑が立っている。

私はその言葉の意味を、長い間よく分かっていなかった。

静かになっていった建物

新潟県糸魚川市・根知。海と山に挟まれた小さな集落に、大きな建物がある。

父が現役のころ、そこで宿泊業を営んでいた。スキー客が来る冬は賑わい、春になると静かになった。

父が年をとり、母も年をとり、建物はただ静かになっていった。

私は上越市で看護師を続けながら、「いつかどうにかしなければ」と思い続けていた。49歳になるまで。

売る、という選択をしなかった

売ることは簡単だった。土地として値がつく可能性もある。

でも、できなかった。

父の石碑がある。父が積み上げた物語が染みついている。その場所を手放すことが、自分にはどうしてもできなかった。

旅館業許可を、取ることにした

民泊ではなく、旅館業だ。

年間180日の制限がある住宅宿泊事業ではなく、365日営業できる旅館業許可として再出発させる。これが最初の決定だった。

看護師26年で積み上げてきたのは、人が安心する空間を設計する力だと思っている。病院でも、救急でも、「この人に今、何が必要か」を考えてきた。

その力を、父の家に注ぎ込む。それが、MIGAKI BASEの始まりだ。

今、許可申請の準備をしている

保健所、消防、行政。それぞれに基準がある。

一つずつクリアして、正式な旅館業の許可を取る。目標は2026年冬、スキーシーズンに最初のゲストを迎えること。


父の「不動心」という言葉の意味が、今はわかる気がする。

動かされないこと。流されないこと。自分が立つべき場所から、動かないこと。

MIGAKI BASEで、それを証明しようとしている。